宮原くんとピアノを弾くようになってから、気付いたことがあった。



前よりも、宮原くんはここにいる時間が多くなってる。



前まではある程度の授業には出てたはずなのに…。



『宮原くん…』



「ん?」



『授業…出てないの?』



「………」



あたしが聞くと、宮原くんは黙った。



まずいこと、聞いちゃった?



だけど、気になって仕方がなかった。



心配だったから。



「いんだよ…。どーせクラスで浮いてて見限られてっし、それに…」



そこまで言って、宮原くんは一度口を閉ざした。



何?



何て言おうとしてるの?



『“いないほうがいい”……なんて、
 そんなこと言わないでね』


「え…?」



『クラスに戻ろう?今だけなんだよ?
 みんなで集まって、同じ教室で同じ勉強をして…
 今しか…今しかできないよ…??』


それに、あたしはもう、出来ない。



ついついそういおうとして口を閉じた。


宮原くんはびっくりしたように目を丸くして、
そしてすぐにつらそうな顔をした。



「ごめん。五十嵐……。お前がそういうなら
 俺、授業出るよ」


『宮原くん……』



「だからそんな顔すんな。な?」


あたし、どんな顔してた?
もしかしたら、宮原くんに気を遣わせてる?


あたしは慌ててうつむいた。


「なんで五十嵐にはわかるんかなぁ・・。
 俺の思ってること」


宮原くんはそう呟くと、あたしの頭に手をのせて
笑った。


「っし。じゃー。今から行ってくっかな!!
 ここで待ってろよ。五十嵐」



『うん。行ってらっしゃい』



宮原くんが背を向けて音楽室のドアに手をかけたとき、


『宮原くん……っ!!』


「……ん?」


思わず呼び止めたあたし。


宮原くんは手をとめて振り返った。


今一瞬、寂しい、行かないでって思ったのは、
どうしてなんだろう…。


あたしは弱々しく笑って、口を、口だけを動かした。


〈頑張って…〉


宮原くんには、聞こえるはずがないのに、


あたしに向かって大きく笑った。



一人になったこの部屋で、
あたしはその後、祈るように



外にあるタンポポに手を合わせた。