『宮原くん、もう少し力、抜いて』
「おぅ……こうか?」
あれから、あたしたちは猛練習の日々を送った。
宮原くんがピアノを弾き始めたことはみんなに知れ渡り、
意外な一面だとみんなは驚いた。
-宮原涼介がピアノを弾くらしいぜ-
-不良のくせに、なんなんだよ-
-でも、ちょっとかっこよくない?-
-ばっか。あの宮原くんよ?-
いろんな話が耳に入ってきた。
みんな、宮原くんをわかってない。
「どした?五十嵐」
『…なんでもない』
無意識のうちに膨らませた頬を抑えて、
あたしは首を横に振った。
「なんか変な感じだよな」
『えっ?』
「俺がピアノ?ガラじゃねぇっつぅか…。みんなびっくりだよな」
ははっと笑って鍵盤を見つめる彼。
宮原くんは優しい。
きっと、みんなが言った悪口も、
あたしがふくれた理由も
全部わかってるからそう言うの。
自分が悪く言われても、
それでも周りを信じようとするの。
だから、そんなふうに笑うんだね。