宮原くんは驚いたような顔をして固まった。


じっとあたしの顔を見つめる。


「は・・・?え・・・?何て・・・?」



『宮原くんに、あたしの夢をかなえてもらいたいの』



「夢・・・?」



『世界選抜コンクールに出場して、ピアノを弾くこと』



あたしが淡々とそう言うと、宮原くんは
真剣な表情をして


あたしの目を真っ直ぐに見つめた。



『あたしが出るはずだった春季の部はもう終わっちゃったから、
 秋季の部に』


「でも・・・っだけど俺!!
 ピアノなんて弾いたことねぇし・・・」



あたしはそっと、宮原くんに笑いかけた。



『大丈夫。宮原くんは大丈夫。あの曲を演奏してほしいの』



いつか宮原くんに聞かせた、宮原くんの曲。



「あの、さ。だって素人の俺がいきなりコンクールなんて…だしてもらえないだろ」




宮原くんが不安そうな顔をした。



『だから、先生にお願いして認めてもらうの』



「認めて…って……」



『あたしに…体を貸して欲しいの』



あたしがそういうと、宮原くんはわかってくれたように眉を下げて息をした。





「俺、ほんとに素人だけどいいのか?」



『うん。宮原くんがいい』




あたしは大きく頷いてそう言った。




宮原くんは決意したように黙って椅子に座り直した。




「俺なんかで良かったらいくらでも貸してやるよ」





『宮原くん……』




鍵盤においた手はあまりにも初々しくて、あまりにも綺麗だった。



ほら。あたしの思った通り。



この手はピアノを弾ける優しい手。



だから、この手を自身で傷つけて欲しくなかったんだ。



宮原くんの手はいつだって傷だらけで、



だけどいつだって優しかったんだ。




『ありがとう…宮原くん』




あたしは深呼吸して、宮原くんの前に座って手を重ねた。




そして-




彼は、静かにあの曲を弾いたの。