ピアノの音で目が覚めた。


目を開けると、まだ日が昇り始めて間もない頃で、
誰も学校にはいないはずだったのに、


その音は鮮明に聞こえた。


別に何かの曲を弾いてるわけじゃない。


ただ、人差し指だけで鍵盤を叩くだけのような、
そんな感じの音だった。



この音、覚えてる。
あの音楽室のピアノだ。


じゃあ誰が?ここには誰も近付かないはずなのに・・・。




『え・・・』





あたしは見た。


椅子に座って、難しい顔をしながらピアノを弾く彼の
その真っ直ぐな横顔を。



『宮原くん・・・?』


「・・・五十嵐?」



宮原くんはあたしに気づくと、パッと鍵盤から
手を離した。



『やめなくてもいいのに・・・』



「や、だって上手いやつの前で弾けないし。
 てか、本当にちょこっと触ってただけで別に
 弾こうとかそんなんじゃ・・・」



慌てて弁解する宮原君が、なんだか少し可笑しくて、
あたしは静かに笑った。



『宮原くん、座って』


あたしがそっと言うと、宮原くんはすとんと座った。



あたしはゆっくり近付いて、宮原くんの手に触れた。


「五十嵐・・・?」



宮原くんの手に、自分の手を重ねる。


そして、ゆっくりと目を閉じて弾き始めた。



あの曲を・・・。



宮原くんの手が動く。



あたしの手も、一緒に動いていた。


触れた手と手の感覚が、
あたしを包み込んだ。




宮原くん、好きだよ。


大好きよ。



いつのまにか、あなたに夢中になる自分がいた。



最近、怖くなって気付いたの。



あたしはいつのまにか宮原くんに恋をしていて、
ずっと、ずっと隠してきたんだって。



だけど今、伝えたくなったの。



宮原くんを、指先から感じて、


この曲を褒めてくれたあの頃の宮原くんと、


今、ここにいる宮原くんが重なって、



何故か、とても愛おしくなったの。



ねぇ、宮原くん、大好きよ。



伝わってしまったかな?



そっと目を開けて宮原くんの顔を覗くと、


宮原くんはそっぽを向いていて、
その横顔はほんのり赤みが増していたのは、


あたしの見間違いだったのかな・・・?