「こっちこっちー!!パス回してけー!!」


汗にまみれて必死になる男子たちの中に、


爽やかで、格好よくしなやかにボールを操るのは


あたしのよく知る人だった。


よーく、覚えてるよ。


その動きも、笑顔も、言動も・・・。


全部、全部覚えてる。


「おーし。じゃあ、次は偶数と奇数に分かれてー!」


『茜・・・くん』


あたしはボーっとして呟いた。


激しく動き回るバスケ部員たちの中に足を踏み入れた。


普通なら危ないけど、


あたしは何人もの部員の体をすり抜けて歩いた。


その視線の先は定まらなくて、


それでも、自分は無意識に一点を目指してるんだって


そう分ったの。


覚えてる。覚えてるよ。


ずっと、憧れてた。


あたしの大切“だった”人。


戸川茜くん。


バスケ部エースで次期部長候補。


「きゃー!!戸川くーん!!」


「茜くん、こっちみたよー!?」


「やーん。やっぱり今日もカッコいいー!!」


そんでもって、女の子から大人気。


そして茜くんは、皆に向ける笑顔を忘れない。


多分、営業スマイルなんだろうなぁ・・。


『はぁ。おーい。茜くーん…』


あたしは茜くんの前で手を左右に振って見せた。


茜くん。ボールは見えても、


あたしのことは見えないのかなぁ。


そう思うと悲しくなって、


そうするとあの時のことを思い出すの。










―えっと・・・。ごめん。誰だっけ?―









あんなこと、こんなに整った顔立ちの人が言うなんて


とても信じられなかったの。