宮原くんはいったい、どこにいるんだろう…。




ここもいない。


こっちにもいない。


どこにもいない。





学校に来てないのかな?




だとしたら、あたしは見つけられない。 ここから出ようとしても戻されちゃうから…。




『不便だなぁ…!』



苛々してそう呟いた。



あたしはゆっくりと歩いて引き返す。



屋上に行こうか。
そこなら、広くてみえると思うから。



だけど、あたしは音楽室に向かった。
ピアノの前に座ってみる。




そういえば、この体になってからはピアノを触ってみるっていう
そんな行為を試したことがなかった。



人をすり抜けるなら、このピアノもすり抜けてしまうのかな・・・。




『あたしは・・・やっぱり死んでるんだね・・』




わかってることなのに、確かめるように、落ち着かせるように、
それは受け入れられるように何度も呟いた。



あたしはもう、死んでるんだよ?
何も出来ない。
ただ、ここでふらふらして、みんなを上から見下ろすだけ。




目を瞑って、ゆっくりと鍵盤へと手を動かした。






目を閉じた、真っ暗な状態で、微かな音が聞こえた。
弱々しく、それでも明るい“ソ”の音が響く。


目を開けると、何もいえなくなった。


だって、



『あたし・・・』




手が、鍵盤に
しっかりとついてるんだもん・・・。




無理だと思ってたのに、
あたしはもう、ピアノとさよならしたはずなのに。



『弾いてる…。あたし…弾けるんだ…!!』




1人、音楽室の中で、あたしは時間を忘れて鍵盤を触った。
特に、何を弾くわけでもなく、低い音から高い音まで、
今までの空白の半年間を、じっくりと埋めるように・・・。




ねぇ、宮原くん。
どこにいるの?
あたしは、ここにいるよ?


あなたが褒めてくれたピアノを弾いて、
ここで、ずっと。
ずっと待ってるよ?


だから、また戻ってきたら
あたしを褒めてよ。



屈託のないその笑顔でもう一度、
笑ってよ。











――

それから、学校中で噂が広まった。




―音楽室の幽霊―




それはあたし。
みんなは怖がって、音楽室に入る人がいなくなった。
冬になって、新しい音楽室が新設されて、
あたしの居場所は、次第に忘れられていくようになったの。



雪が降ってきた。