たんぽぽ

『誰もいない・・・・』




当たり前だよね。まだ7時。
生徒なんているわけもなくて、あたしはかばんをおいて
音楽室に行った。




大きなピアノの前にたつ。
しっかりしなきゃ。本選まであと3週間切ったんだし。





椅子に座って深呼吸する。
手を鍵盤の上におくと、不思議と安心できた。




この感じ・・・。
やっぱりピアノが大好き。
ピアノがなかったら、あたしは奈々と出会えなかったかもしれない。
あたし、ピアノを続けることでしか価値がないもん・・・。




『はぁ、止めよ・・・・・』





『・・・・手、大丈夫?』





『え・・・・?』





びっくりして振り返ると、やっぱりあの男の子がいた。
あたしをじっと見つめている。




『あ・・・。大・・丈夫』




あたしは手をなでるように胸の前に持ってきた。
昨日、勝手に飛び出してきちゃったから・・・




『昨日はごめんなさい。あたし、お礼もしないで…』




『うん。それはいーけどさ。
 あんたが、そこまで隠す理由は何?』






『え・・・?』






真っ直ぐな目で見つめられると、
ついつい、自分が情けなくなってくる。






どうしよう。認めたくない自分がいるの。
奈々とあたしは、間違いなく友達だって。






奈々はあたしを嫌ってなんかいないってこと・・・。






『そ・・・そんなの・・・っ・・・あなたに関係ないでしょ!?』







思わずきつい口調になってしまう。
あたしの言葉に、男の子は一瞬戸惑ってため息をついた。





『俺はさ・・・・』






男の子が何かを言いかけたとき、
後ろから声が聞こえたの。






『何してるの・・・?』






男の子が目を細めたのが分った。
それが誰なのか、あたしには分る。





背中に感じる、冷たい視線が、
どこかで感じたその冷たさが
あたしの全身を奮立たせた。






『奈々・・・・?』