なんでなのかわからない。

だけど確かにこの人は言った。


“あたし”に向けて。


-私に言ったのよ-


あたしは美香を見つめた。
美香はしばらくドアの奥をじっと見つめている。



「今の、私に言ったのよ?」



『え・・・』



美香はもう一度そういうと、
あたしのほうを振り返った。


その大きな瞳は確実に、そこにいる“あたし”を捉えて。
じっと見据えていた。



「あんたにじゃないわ」



『山本さ・・・』



どうして?あたしがみえてるの?
あたしの声が聞こえるの?



なんで・・・。



あたしが動揺していると、
それを察したかのように



美香は冷たく笑った。



「なんでって顔してる・・・。
 私、あなたのこと最初から見えてるわよ?」



『え・・・?』



「なにその顔。びっくりした?別に不思議じゃないわ。
 だって私、霊感強いもの」



“霊感が強い”



昔、小学校くらいのときに友達がそう言ってた。
そんなものあるわけないって、いじめられてたけど・・・。



まさか、美香がそんなこと言うなんて・・・。



「本当よ。あなただけじゃない。
 この世に彷徨ってる霊は全部みえるわ」



嘘よ。
そんなのあるわけない、


いくら霊感が強いからって
あたしの言葉が聞こえたり、あたしが見えたりするはずないよ。


あたしがそう思っていると、
美香はまた笑った。



「信じてないでしょ?たとえばあそこ―」



美香はそう言って指を突き立てた。
その指の指す方向をあたしはゆっくりと見た。



『あ・・・・』



屋上の隅っこに、制服を着た男子の姿があった。
壁にもたれるようにして、俯いている。


美香は確かに、的確にその男の子を示していた。


「もう随分前のここの生徒みたい。
 話しかけてもこたえてくれなかったわ」



美香は寂しそうに言って、あたしに向き直った。


「ね?わかった?だからあたしはあんたがみえる」



『そんな・・・。でも、どうして黙って・・・』



「涼介には内緒であんたに言いたいことがあったの」



宮原くんに内緒・・・。
美香は鋭い目であたしを見た。