美香はゆっくりと音楽室に入ってきた。
少し怖がっているみたいに見えたけど、
彼女は宮原くんの前まで来ると、
にっこりと笑った。
「ここにいたんだ?探したよ」
「美香、お前、何でこんなとこに・・・」
「それはこっちのセリフでしょ!?
涼介こそ、どうしたの?旧校舎なんかで・・・」
美香は頬を膨らませて上目遣いに
宮原くんを見つめた。
宮原くんは困ったように前髪をくしゃっと
かきあげた。
「別に。なんだっていいだろ」
「・・・もう。いつも素っ気ないんだから。
何?ピアノ?涼介って、ピアノ弾けたっけ?」
美香はピアノに初めて気付き、
鍵盤に触った。
「悪いかよ。最近始めたんだよ。つぅか、
触んな。離れろ」
「なんで~?いいでしょべつに。
あたしたち、何でも話せる仲じゃん!!」
え・・・?
何でも話せる仲?
美香っていうこの女の子と、
宮原くんはそんなに親しいの・・・?
あたしは黙って二人のやりとりを見た。
なるべく、気配を消して・・・。
宮原くんに、
“誰?知り合い?”
って、それくらい聞けばいいのに、
あたしにはそれが出来なかった。
今喋ったら、
絶対後悔するって、そう思ったから。