「ピアノなんて、弾かなきゃよかった」



『え・・・?』



「そうしたらあたしは真奈美を・・・」



奈々は自分の手をじっと見つめて、
しばらく黙っていた。



何分か経って、奈々はゆっくりと椅子に座り、
手を振りかざした。



え・・・?




バーン!!!!



不協和音が大きく鳴り響く。



ずっと使われていなかったそのピアノは、
弦が弛んでいて、鋭くきれた。



ピッと、勢いよく、その弦が奈々の頬をかすめた。



「・・・っつ・・・」




『奈々・・・っ!!!』


あたしは思わず、奈々のそばに駆け寄った。


奈々の頬からは血が出ていて、
その血を滲ますように、頬に涙を伝わせていた。



「真奈美・・・っ!!!」




『奈々・・・』



「殺すつもりなんてなかった・・・っ!!
 真奈美の苦しむ姿を見れれば、あのときは
 気持ちが楽になったの・・・っ!!
 まさか、死んじゃうなんて思わなくて・・・っ!!」



何度も、何度も鍵盤を叩いた。



それまでの、あたしたちのこじれた関係を、
崩れていった何かをかき消すように。



何度も、何度も・・・。




「もう、まっすぐにはなれないでしょ・・・?
 あたしはこのままずっと、悪者でいるしかないんでしょ?」




奈々・・・?


それは違うよ?



絶対違う。



お願い。奈々。



気付いて・・・。



「苦しい・・・。どうしてこんな辛い思いをしなきゃないの!?
 どうせみんなに嫌われるなら、
 あたしなんて死んだ方が・・・・・・っ!!」



『奈々っ!!』



そう泣き叫ぶ奈々は、切れた弦を拾って
それを手首に持っていった。