「アメリカに帰るんじゃ」

「今日の午後の便でね」

その前に忘れ物を取りに来たの、あと医局長に最後のご挨拶

「…そうですか」

なんか出鼻くじかれたわ

すっかり戦意の削げたしるふは、自分のロッカーを開ける

「ねえ、立花先生」

その背に話しかける芳川の声は、あの時よりもやわらかい

「はい」

「足枷、なんて言ってごめんなさいね。黒崎君があんな風にのびのびと医者でいるところ、初めて見たわ」

アメリカにいた時も、結局彼は黒崎病院の、黒崎医院長の、と呼ばれていたから

その度に一瞬海斗の瞳は、無感動になっていた

「それに、あなたと黒崎君のペア」

最高ね

たかが医者になって2年目の新米をなぜわざわざ呼びに行かせるのか

最初は理解できなかったけれど

彼女と彼の間でしかわからない呼吸がある

ぴったりとパズルのピースがはまるように、そこに彼女がいる

それが分かってしまったら、アメリカになんて誘えない