静まり返った室内の沈黙を破るように、しるふのカバンの中で携帯が震える

はたとみると表示されているのは、海斗の名前

「私が言いたいのは、それだけだから」

お疲れ様

呆然とするしるふの横を芳川がヒールの音を鳴らしながらすり抜けて逝く

「…もしもし」

鳴りやまない電話の通話ボタンを押す

「遅い」

途端に聞こえる不機嫌そうな声

でもそれは、きっと上辺だけ

「ああ…ごめん。今行く」

カバンに荷物を詰めて、周囲を確認してからロッカールームを出る

せっかく軽くなった体は、気持ちとともに再び重く感じられた

出入り口のところで待っていてくれた海斗に

帰ったからすぐ寝ろよ、と言われるほど顔色が悪くなっていたらしい

その日の彼の背中は、今までで一番遠く感じられて

それがすごく心もとなかった