瞳の向こうへ

お母さんを見ながら歯がゆそうなお父さん。

「お父さん、私手話出来ます。葵さんほどではないんですが」

葵ちゃんを持ち上げては見たもののピクリとも動かない。

「本当ですか!」

お父さんが少しビックリしてたけど、お構い無し。

『初めまして。葵さんの顧問をしております川崎と申します』

通じるかなあ。葵ちゃんよりもベテランっぽいから。

『初めまして。葵の母です。わざわざ遠いところまでいらして申し訳なく思ってます』

よかった!通じました!

『手話出来る先生って素敵ですね』

『そんな……。私の手話はこれでもヘタクソな部類です。葵ちゃんがいなかったら自己流のとんでもない手話になってました』

何かツッコミを入れてくれるかとほんの少しワクワクしたけど、葵ちゃんはとうとう言葉一つ発しなかった。