瞳の向こうへ

「葵ちゃん!葵ちゃん!」

私が呼んでも一向にやめる気配はない。

それならばと葵ちゃんを強引に私の胸に抱き寄せた。

「先生……廉はどうして電話に出ないんですか?何度も何度もかけてるのにどうしてでないんですか?どうして……」

初めてよ。葵ちゃんが嗚咽する姿を見てしまうのは。

泣きじゃくる葵ちゃんを強く抱きしめ撫でてあげることが今私に出来るせめてもの励まし。

「葵ちゃん、病院に行こう。ね?」

葵ちゃんに優しく問いかけて、本人も首を縦に振ってくれた。

散らばった原稿用紙を私が拾い上げてクリアファイルに綴じてカバンの中に入れた。

私の書類も散乱してたから封筒に入れ直しました。

しばらく見る必要もなさそうね。