天ノ月

「…君はミカエル様に恋い焦がれすぎです」


不機嫌そうで、それでいて悲しそうな声色。
なんでそんな声で言うの、か。


「私の勝手でしょ。ほら、行こうよ。ミカエル様が戻ってきたら怒られちゃう」


故意に視線を逸らす。
自意識過剰かもしれないけれど確かに、タミエルの声色に含まれていた"それ"を見なかった振りをした。


(だって、タミエルは仮にも完全な天使だし)


タミエルが気付いていなければそれで構わない。


「そうですね。ではさっさと出ましょう。僕は正当な理由があって此処にいますが君は違いますしね」


「タミエルしつこいよ」


そして扉に手を伸ばす。
その前にもう一度、と振り返り部屋を見渡した。


(…苦しい、)


焦がれるあの天使の部屋に、居ることが。

タミエルが訝しみながら此方を見やる。