天ノ月

「ここで待っていてください。御勤めに関する書類をもってきます」


神殿に着くなりタミエルはさっさと何処かへ向かって行った。

最近になって気配を押し殺す術を身につけた私は、その背中をこっそり追っていく。


(何せ、タミエルったら小一時間私を待たせることもあるし)


信頼しているんだかしていないのだか、いまいちはっきりしなくて笑ってしまう。


そしてタミエルの辿り着いた部屋を見て思わず口を押さえた。


(ミカエル様の部屋っ……!)


胸中で興奮気味に叫び、ミカエルの部屋へ入っていくタミエルを羨望の眼差しで見つめる。

意地でも着いていけばよかったと少し後悔…。


…だが生憎、後悔して終わるほど私は単純ではない。


「失礼します…」


小さな声で呟き、大きな部屋へ足を踏み入れた。

香る花の匂いに眩暈がしそうだ。
辺りは一面書類が積まれていて、だが部屋が汚い訳ではない。

これが、ミカエルのために設えられた部屋…。

だがミカエルの姿はなく、先程まで飲んでいたのであろう、紅茶が入ったカップが置いてあった。


(天使も飲み物飲むんだ…)


カップにそろりと手を伸ばす。