その瞬間、とても静かで冷たい風が地を吹き抜けた。
髪を出来るだけ静かな動作で押さえながらタミエルを見ると、相変わらずのポーカーフェイスで書物を読んでいる。

岩陰からでは何が起こっているのか見るのは不可能だ。

思わずタミエルの名を呼ぼうとした時。


「…こんなところで何をしている」


とても静かな、怒気を含んでいるような鋭い声が響き渡る。
誰の声か、なんて愚問だ。


「…ウリエル様こそどうしてこのような所に?」


ウリエルという言葉に、肩が跳ねた。


「お前に会いに来たに決まっている。一体どういうつもりだ」


露わにされた怒りに、背筋が凍る感覚がした。
しかしタミエルは動じる気配を見せない。実際、少しも動揺していないのだろう。


「僕は贖罪しているだけですよ」


斜め後ろから見える彼の顔は、普段以上に鋭くて威圧的だ。