先生の顔がだんだん遠くなる。


カクンッ・・・!


ノートが途中でわけがわからない字になっている。


やっぱり、理科の時間は眠くなってしまう。


「じゃぁ、ワークの52ページをやっておくようにー。」


「起立、礼。ありがとうございました。」


日直が号令をかけると、教室は一気にざわついた。


「雪乃!見てみて!今日、理科、星のことやってたじゃん?それで!星占いやってみたの。今日はね、梨乃、京ちゃんといいことあるってさ!」


「よかったね!なんだろうね、いいこと。」


「うん、あ!あとね、雪乃は・・・恋愛、イライラすることがあったり落ち込むことがありそう。そんなときは外に出て気分転換してみて!・・・だって~。」


所詮、占いだから。彼氏もいないし。


「雪乃、優くんのことで何かあるんじゃない?」


私の好きな人、『野々村 優』背が高くて、男子バスケ部のエースだ。


「もう、いっそのこと、諦めちゃおうかな?・・・なんてね。」


最近は、もう諦めモードに入っていた。


つい前までは、みんな、優くんもあたしのこと好きなんじゃないか?って噂があった。


けど、最近それもなくなって、今では、優くんから来ていたメールも来なくなった。


「梨乃、今、ちょーびっくりした!諦めようなんて、思わないでよ!」


梨乃は、大げさにリアクションを取った。


教室のドアのところに、照れくさそうに、でもクールに梨乃の名前を呼んでいる、京介くんがいたのに気づいた。


「あっ、京ちゃん!今日ね、京介と帰るからっ・・・雪乃、ごめん!」


京介くんと梨乃を見てるとすごく嬉しい。


幸せそうで、ラブラブで。お似合いで。


あたしは梨乃に手を振ると、自分も帰るしたくをした。


「やばっ。雨、降ってきてんじゃん。」


窓の外は雨が結構、降っていた。


傘を忘れた私は、どうしよう、と窓を見ていると


「優くんだ・・・。」


チャンスかな・・・?


走って行ってみたら、傘に入れてくれるかな?


よしっ!いこう!
2階から1階まで、急いで階段を降りた。
優くんのところまで、あと200mってところで、横から女の子が優くんの傘に入った。


2人とも、笑って顔見合わせてた。


走ってきた自分が、すごく惨めで、悲しいやつみたいで、
泣きそうになった。


そばにあった傘立ての、使っていなさそうな傘を開いて、いつもとは違う裏道の門を出た。


外はもう、暗くなってきていた。


寒いし、暗いし、一人だし・・・早く帰りたい。


ちょっと行ったところに『星美丘』という木の看板が立っていた。


学校からすぐそばに丘なんてあったんだ。


「行ってみようかな。」


丘を少し登ると、星が綺麗に見えた。


安心して、涙が出そうになる。


「綺麗・・・」


後ろで、ザクッと足音が聞こえた。


「・・・泣いてもいいんじゃない?」


「えっ・・・」


「泣きそうな顔してる。泣きたい時はさ、泣けばいいんだよ。」


「・・・泣いてもいいのかなっ?・・・泣いても・・・」


「いいよ。思いっきり泣けばいい。」


「うっ、うわあああん!・・・ひっくひっく、うわぁんん!!」


思いっきり泣いた。


優くんが女の子と居たこと。少し期待していたこと。惨めで、悲しかったこと。


全部全部、泣いて、スッキリさせた。


「な、すっきりしたでしょ?俺も、たまにさ、ここ、来たりするんだよね。」


この人は、よく見るとあたしと同じ制服を着ていた。


「あたしと同じ学校・・・。何年何組の方ですか?」


「えっ、知らないの!?ちょっとショックだな・・・。」


「わっ、すみませんっ。」


「俺、1年3組の森流星!隣のクラスなんだし、覚えておいてよ。」


森、流星・・・


聞いたことがあった。顔はイケメンだけど、なんか、問題アリな人って噂。


しかも、なんで、私が隣のクラスって知ってたんだろう?


・・・普通、半年も同じ学校いれば、顔くらい覚えるか。


「森くん、だね。覚えておくね。あ、私は・・・」


「佐野、雪乃ちゃん。でしょ?」


先回りされたのと、私の名前を知っていたのとで、びっくりして何も言えなくなった。


「ゆっきー。どう?新しいあだ名に。」


「あ、う、うん。」


「なんだよー、乗らねぇなあ。・・・あ、雪だ。」


気がつけば、雨が雪に変わって、星と雪で雰囲気を出していた。


「さみー。よしっ、帰ろーぜ?家まで送ってく。近いんだろ?」


「さっきから思ってたんだけど、なんで私のこと詳しいの?名前とか、家とか・・・」


「んー、なんでだろう?俺、お星様だから。流れ星だから?」


と曖昧に返して、森くんはあたしの手を掴むと、一気に丘を駆け下りた。
それから、あたしの家の前で別れると、今、来た道を戻っていった。


もしかしたら、森くんの家、反対方向なのかも。悪いことしちゃった。


明日にでも、謝ろう。


でも、ほんとに、流れ星みたいに現れてすぐ消えちゃうような人だな。


また、すぐに会いたいと思った。


お風呂から、上がり、ご飯も食べ終わって、一息ついたところだった。


ケータイの着信音がなる。


「誰からだろう。」


メールを開いてみると、


To.梨乃
***********

雪乃!聞いてよ!

例の、“星占い”当たったんだよ!

いいことあったんだよ!!

梨乃、京ちゃんとチューしちゃった!

雪乃は、当たってたー?


梨乃

***********


と書いてあった。


星占いのことなんか、頭にもなかった。


けど、当たってる。


すごい。


でも、なんだか、梨乃に、返信したくなかった。


だって、また、嫌になるから。


きっと、思い出して、また泣いてしまうから。


怖かった。


ほんとは、占いもあったて欲しくはなかった。


優くんが、他の女の子が好きだってこと、薄々、気付いてはいたけど・・・


認めたくなかったんだ、多分。


ほんとは、知ってたはずなのに。


・・・諦められなかったんだ。


そんな自分に、腹が立って仕方なかった。


『イライラすることがあったり落ち込むことがありそう。そんなときは外に出て気分転換してみて!・・・だって~。』


今日の、占いを思い出した。


ここまで当たってるんだし、信じてみてもいいかな?


私は、雪の降る外に出た。


何枚も着込んできたはずなのに、外は、ジンとくる寒さだった。


上を見上げると、あの丘で見た星よりも、はっきり見える星たちがあった。


「森くんも、見てるのかな・・・。」


綺麗に輝くオリオン座を見て、そう呟いた。







次の日・・・―――


「あれ?今日は、早いね。」


隣の1年3組の方を気にしていると、後ろから声をかけられた。


梨乃だ。


バレてもいいはずなのに、心臓がバクバクして、隠し事をしているみたいな気分になる。


「う、うん!・・・そう!時計!時計をね、読み間違えて、慌てちゃったよー。・・・あはは」


挙動不審でバレたかと思った、その瞬間。


京介くん登場!


「あ、・・・森くん。」


京介くんの隣にいたのは、森くんだった。


昨日は暗くて、よく顔が見えなかったけど、そこそこ、美形の顔の持ち主だった。


「昨日は、どうも。ゆっきー。」


「こちらこそ。森くん、帰るの反対方向だったのに、付き合わせちゃった?ごめんね。」


「あぁ、いいよ別に。それに、女の子を一人で歩かせたらダメでしょ?」


京介くんと、梨乃の頭の中は、ハテナでいっぱいのようだったが


「やるな、流星。男じゃん。」


と京介くんが言った。


「うん。すごいね。」


梨乃も続けた。


そこで、森くんが気づいたように


「矢崎さん?俺、森流星です。よく、京介から、話、聞いてるよ。」


「私も聞いてます。」


梨乃と、森くんは、義理父と、お嫁さんみたいだった。


「あ、そうそう。流星が、新しく、部活を作るらしいんだけど、お二人さんは帰宅部だからどうかなって。」


「何部~?どんなことすんの?」


「うん、部活名は『天体観測クラブ』まあ、その名の通り、星を観測しようと思ってるんだよね。」


森くんには、ぴったりの部活だった。


興味があったし、昨日の恩もあることだし、部活に参加することにした。


梨乃も、京介くんと同じ部活に入れるってことで、同意した。


うちの学校では、部員が4人集まって(ただし、運動部はゲームができる人数)、顧問が一人確保できたら、部活として成立することになっている。


顧問の先生は、理科の、“寺島”が進んで名乗り出た。


こうして『天体観測クラブ』は先生も含め5人のメンバーで結成された。


活動場所は理科室や、会議室。(特に、会議室が多かった)


土日、祝日などを利用して『星美丘』まで行って、星を見る。


という内容で、部員も募集することにした。


なんだか、寺島もそんな悪い先生じゃないし、いいメンバーだった。


そして、あたしの中でも何かが変わる。


そんな気がした。