到着するなり、とにかく僕は驚いた。

 このビルの中に喫茶店でもあるのかと想像していたが、まさか、待ち合わせが廃ビルだなんて。 

 いや、でも大丈夫。多分、ここまで車で来るんだろう。そして僕を拾って何処かに行くつもりなんじゃないのか。それ以外に考えようも無いし、第一、逢うところを他人に見られたくないという女性の心境も分からなくはない。

 僕は、彼女の姿がまだ無いことを確認すると、手持ちぶさたに廃ビルの周囲を観察してみることにした。 
「こんな丘の上に建物がこれだけなんて、何かの開発計画でも頓挫してしまったのだろうか・・・」

 辺りは背の低い雑草だらけで、それ程暗い雰囲気でも無いことから、僕はそんな推測を立て、玄関らしき所から足を踏み入れてみた。 

 コンクリートの床からは、ひび割れた場所を生命線にでもするかのように雑草が伸び、この様を見ると、さすがの僕も奥に進むのは躊躇せざるを得なかった。