「母さん、父さん!俺は東京に行きたい。東京に行ってプロのミュージシャンになりたいんだ。」
高校3年の夏休み。周りは大学受験や就職活動に明け暮れる中、進路希望にも白紙のままだった太一の家に、クラスの担任から電話がかかってきて緊急家族会議が開催されていた。


「太一、おまえの気持ちはよく分かる。夢を持つというのは大切な事なんだ。しかし、ミュージシャンなんて甘い道じゃないんだ。お前と同じ様な気持ちでたくさんの人が駅前なんかで演奏している。その中でテレビに出れる人はほんの一握りだぞ。」


堅実なサラリーマンである父の現実的な言葉に最初は俯いていた太一は父の顔を真っ直ぐと見直して答えた。