「プルルルルー。まもなく発車します。ドアが閉まります、ご注意ください。」


太一は新幹線の中に入った。

まるでドラマのように窓側の席ごしにみんなと最後の言葉を交わした。


「じゃあ元気でな。たまには帰るからサインはその時な。」


泣きたい気持ちを隠した精一杯の笑顔で太一はみんなを見送った。


その時、なにやらホームの階段からすごいスピードでこちらに向かってくる人影があった。


「太一、待て!!」
息を切らして走って来た父親が手提げのビニール袋を太一に差し出した。
中には太一が幼かった頃から今までの大量の写真が入っていた。


「勘違いするなよ、まだ認めた訳じゃない。ただ、今度帰ってくる時には芸能人らしく変装でもしてくるんだな。あと、土産モ忘れるなよ。」



父親は照れくさそうに頭をかいて話した。


「まもなく発車します。」


新幹線が動き出したと同時に太一の目からは涙が溢れた。


太一は成功するかしないかの大きな賭に出たのだ。

でも不思議と怖くはなかった。


過ぎていく町を眺め、東京が近づくにつれて気持ちが高ぶりだした。


「やってやるさ!見てろよ東京のやつら。」


小さく呟き窓の外の景色に拳を突き出した。