幼い私は、母と二人暮らしだった。
『さーちゃん、ばばな!』
『ハイハイ、ばななね…』
私は母を『さーちゃん』と呼んでいた。母は私を『みーちゃん』と呼び、そして父を『ゆーちゃん』と呼んでいた。
『さーちゃん、ゆーちゃんはぁ?』
『…ゆーちゃんはねぇ、お仕事かなぁ…?』
『おし…?』
『お、し、ご、と。』
『お、ひ、ご、ご?』
『ふふっ…みーちゃんは面白いね…』
私は『さーちゃん』の穏やかで、優しい笑顔が大好きだった。
―――――
『さーちゃん?』
それから一年たったある日。
私たちの幸せな日々は、終わりを告げることとなる。
『みーちゃん、しぃー』
『しぃー?』
『しぃー、ね?』
『うん!』
静かに、という意味でさーちゃんが私にしぃー、とやった。
私は素直にうなずいて、座っていた。


