お、お兄ちゃん!?
僕は硬直した。

「ち、違う!」

慌てて否定したが、もう遅い。

小父さんは立ち上がって、僕を敵のように睨む。
車内の全員が僕を見ている。

「いや、人違いですよ・・・・・・わははは」

僕は両手をバタバタと振り、カラ笑いをしながら、振り返り君を見る。

「人違いですよね? みなさんに説明してくださ・・・・・・」

振り返った瞬間、僕は笑みをなくした。というより、泣きたくなった。

君はしゃがみこみ、頭をドアに預け、気絶するかのように爆睡し始めた。

「ちょっと・・・・・・みんなに説明してください! 僕は君とは知り合いでもなんでもないよね!」

僕は君のそばに駆け寄り、肩を揺すった。
頼むから起きてくれ、と祈った。

だけど僕の懸命の祈りが、君の手のひらによって打ち砕かれた。君は電車の床をまるで自分のベッドのように横たわり、寝返りのついでに手のひらを僕の頬に命中させたのだった。

“パッ”

乾いた音がした。僕はさらに泣きたくなった。

なんで僕が・・・・・・と顔を上げると、さっき小父さんと目が合ってしまった。

さすがに笑う余裕はなくなった。

小父さんは顔面を真っ赤にして怒り、角が生えれば、立派な鬼にもなれる形相になっていた。おまけに全身にラーメンの残飯がいっぱいだ。

僕は立ち上がり、手を振った。

「ご、誤解です! こ、この人とはなんの関係もないんですっ」

慌てていて、上手くしゃべれない。

「おい、自分の妹やろう! 責任取れや!」

関西弁まじりで、小父さんは僕に一歩近づいてきた。
なんだか、下水のニオイがする。

「本当です! 信じてください」

「お前! 男だろう!」
小父さんが僕の胸倉を掴んだ。

男でも、知らないものは知らない! そう心の中で思った。

が、しかし、僕の口から吐き出された言葉は、思ったこととは裏腹になんとも弱弱しく、情けないものだった。

「・・・・・・すみません」

僕は溜息をつくしかなかった。