電車がまた揺れた。

しかも、さきほどよりも遥かにその身を軽々しく上下左右に振った。ジャンプでもしたかと思った。

次の瞬間、君の口からおびただしい量の汚物を、扉に一番近い座席に座っていた小父さんの頭に吐き出したのだった。

ラーメンやら、野菜やら、酒かスープかよくわからないものが全て小父さんの頭に染みこんだ。不思議だが、小父さんの髪型が崩れない。

小父さんが口を『ヘ』の字に結び、君を怒鳴ろうとしたその時、君は彼を黙らせるかのごとく、もう一発の汚物攻撃を彼の顔面に見まわしたのだった。

小父さんは黙った。自分の髪に手をいれると、ズボッとそれを引っ張った。

えっ? カツラ?

僕は必死も笑いをこらえるが、彼はちっとも笑わなかった。アメリカ南部のひび割れた大地のような頭を触ると、ネクタイで顔面を拭く。

「ふふふふ・・・・・・」

僕は耐えず、小声で笑った。

それがいけなかったのかもしれない。もし天罰が本当にあるとしたら、そのとき僕はきっと天罰を食らったのだ。

笑いながら君を見ると、君も僕を見ていた。目はすわっていて、とても酔っ払いの目には見えなかった。

そして、僕を招くような仕草をして、口で、

「お兄ちゃん」と呼んだ。