ゆっくりと君に抱きつくと、僕は顔を近づけた。

君の息がかかる。

軽く君の唇に触れると、温かくて、柔らかい感触が伝わってきた。

それに、少し甘い。

一度君から離すと、君の顔を覗いた。

君は自分の唇を噛みしめ、切なく笑っていた。

初めて触れる君の、唇。君をいつも以上にキレイに感じた。

もう一度君の肩に手を伸ばし、君を抱きしめた。

君の唇は、薄かった。

僕はそれを包むようにして、触れる。

触れ合った分だけ熱を帯び、敏感になる。

僕の舌が君の唇をノックした。

君は僕を迎え入れると、僕は更なる深部へと目指す。

唇の内側のピンク色をした柔らか肌が触れ合い、僕たちはまるでひとつになっていた。

なんだか、胸のワクワク感が変わった。

なんというのだろう、急に僕たちの行為に性的な色を帯び始めて、僕は我を忘れそうになった。

どのくらい僕たちはこうしていたのだろうか。

あまり気が高ぶりすぎて、時間の感覚を失ってしまった。

しかし、ひとつだけ確信はしている。

僕たちはきっと、もっと前からこうなることが決められてたんだ。

夜を照らす街路灯の光がまるで何万年も前からそこにあって、僕たちを照らし続けきたみたいだった。

アスファルトを突き抜ける光の粒子が優しく僕たちを包み込み、そこを僕たちだけの空間にしてくれた。

二人の呼吸で暖められた空間。

時は流れ、淀み、そして進んだ。

幸福の円環が僕たちを囲み、架空の軸がグルグルと回りながら、僕たちはただ相手の存在だけを感じ取っていた。

遠くから十二時の鐘音が聞こえた。

「あっ、帰らなきゃ」

君は突然僕を突き放し、そういった。

「えっ、もう」

僕たちはまだ始まったばかりじゃないか。

「門限なの」

そういうと、君はまるで何かから逃げるように足早と去っていった。