僕のとなりは君のために

「ある日、俺は突然あいつから自分の店を持ちたいと相談された。彼女の商売を考えて、できるだけラクにさせてやりたいと思った。でも俺にはそんなまとまった金なんてあるわけがない。だから俺は悩んだ。どうしたらいいかと。

 それで俺はある方法に気づいた。長年会社で働いたおかげで、俺は社長から信頼を得ていた。金庫の鍵の保管場所を教えられたし、暗証番号だって知ってる。仕事はできないけど、信用は人一倍あった。

 そして、気がつけば俺は会社の金に手を出してたんだ。もうあとには引けない。芳子のためなら俺はなんだってやるさ! それを! あいつは裏切りやがったんだ!」

小父さんの嗚咽が止まらない。

「まだ彼女が小父さんを裏切ったと決め付けるのは早いわ」

君は言った。

「うるせぇ! お前に何が分かるんだ! 俺はもう帰る場所がないんだ! だから、こいつを殺して俺も死ぬ!」

こいつとは、きっと僕のことだろう。そう思った時、ナイフに力が込められたのが分かった。

僕は目を瞑った。
君は僕の為に泣いてくれてたんだ。
もう、死んでもいい。

「やめて、やめて!」

君は今にでも走ってきそう勢いだ。

「わかるよ! 小父さんの気持ちわかるよ! 私も、今好きな人がこうして小父さんに命の危険に晒されてるんだもの。わかるよ」

君はいま、なんと・・・・・・

「本当に小父さんがその人のことが好きなら、その人の不在も認めてあげて。その人を信じてよ。・・・・・・・・・・・・だってその人、本当に好きなんでしょう? どんなにひどい人でもその人を全て受け入れるのが、愛なんでしょう?」

君の涙は、やがて号泣に変わった。

そんな君を僕は抱きしめてあげることすらできない。

――どんなにひどい人でもその人を全て受け入れるのが、愛なんでしょう?

君がそういった。

僕は気づいた。その台詞は、僕に発したものであることに。

もういい加減、奈美子の事忘れなくちゃ。
僕には、君がいるんだ。

“ガチャ”

ナイフが小父さんの手から滑り落ちる。

小父さんは僕を放した。

「守ってやれよ・・・・・・」


それが小父さんが僕に向けて発した最後の言葉だった。