僕のとなりは君のために

「俺は駄目な男だ! 会社でも邪魔者扱いされ、おまけに部下にも相手にされない。だからお前は唯一の生き甲斐なんだ。歳が離れたっていい。俺は気にしない。お前が水商売でも構わない。俺は全てお前のためにここまでやってきたんだぞ。芳子! 帰ってきてくれ! 一方的な別れなんて、俺には耐えられないよ」

小父さんの声がホールを通り抜けていく。

もう誰も小父さんを説得するものはいなくなった。

一番若い警官が、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに頭を振る。

リポーターの女性が「やってられないわ」ともらしたのを、僕は聞き逃さなかった。

もう大丈夫。

しばらくすれば小父さんも飽きてくるだろう。

危険が伴う事件性がほぼなくなったと、誰もが思い始めた頃、一本の電話が全てを変えた。

リポーターの女性が携帯電話に出ると、顔色を変えた。

赤から白へ。白から青へ。

血が引いていくとはこのことだろう。

リポーターはなにやらヒソヒソ話をカメラマンに呟くと、彼もリポーター同様の反応を見せた。

寒気に似た、何か嫌な予感が足の裏から立ち昇る。

リポーターが小父さんにゆっくり近づき、深呼吸し、ゆっくりと口を開いた。

「たった今、大山芳子という方から連絡がありました」

小父さんの動きがぴたっと止まった。

「大山芳子さんは、もうあなたとはお会いしたくないそうです。もう付きまとわないでほしいと・・・・・・」

「なんだと!!」

小父さんの怒りが爆発した。

ナイフを持った手がリポーターに向かって、空を切る。

「きゃっ」

リポーターがマイクを投げ出し、逃げようとするが、ハイヒールを穿いた足が踏み外し転倒した。

「おい! 芳子を連れて来い!」

小父さんは再度ナイフを僕の首に当てた。


「連れてこねぇと、この小僧をぶっ殺すぞ! これrは脅しじゃねぇ! 早くしろ!」