僕のとなりは君のために

小父さんが耳元で喚いてからしばらく経つと、マスコミと警察が到着した。

警察は一般客等を店の外に追い出し、店内のBGMを切った。

シーン、と波が打つように静まり返った。

カメラと証明が僕たちを囲み、警察が説得を試みる。

「俺を映せ!」

短く叫んで、小父さんはカメラをこっちに向かせた。

「スタンバイOK」

カメラマンが左手を挙げ、前にいるリポーターの女性にサインを出した。

三十代前半のリポーターは慎重な足取りで、一歩一歩と近づいてくる。

犯人を刺激しないようにと精一杯平常心を装っているつもりだろうが、いかんせん足が震えすぎて、緊張しているのがバレバレのである。

「○○テレビの藤岡です」

リポーターの女性が言う。

「山田さん、○○株式会社の山田さんですよね・・・・・・」

さすがマスコミ。もうある程度小父さんの身元を割り出したようだ。

「よこせ!」

小父さんは強引にリポーターの手からマイクを奪い取ると、一息を吸い、まるで何か重大な発表でもするかのように口を開いた。


「芳子、帰ってきてくれ!」


小父さんは眉間に皺をよせたまま、母親に叱られた子供のように泣き出した。

あまりに突然のことで、僕のみならず、その場にいる全員がポカーンと拍子抜けな顔をしている。

この展開って・・・・・・ないだろう。

もしナイフがなかったら、僕は間違いなく小父さんの頭を叩いていたのだろう。

「芳子! 帰ってきてくれ・・・・・・」

それでも小父さんは場の雰囲気を察することなく、夢中になってカメラに訴え続けた。