僕のとなりは君のために

「あ、あの、彼女を放したほうがいいですよ。彼女はき、危険です」

「はぁ、てめぇ、何を言ってるんだ! もっとはっきりとものを言えないのか! これだから最近の若者は!」

小父さんが怒鳴る。

「彼女は乱暴な人間です! 北○神拳の使い手です。それに彼女は変な病原菌を持ってます」

「はぁ?」

「そうです。その、水虫菌です。結構特殊なもので、人に移ります。頭に移ったらハゲちぇいますよ」

出任せが口から飛び出る。

君は僕を睨むが、僕は君を無視した。

この際だから、構うものか。

「彼女は抗体を持っているからなんともないけど、僕はもう髪の毛以外、何も残ってないんです!」

そういうと、僕はもともと体毛の薄い胸をあらわにし、小父さんに見せ付けた。

「こうなりたくなければ、彼女を放してください。悪い事は言いません。その代わりに僕が人質になります」

何を言ってるんだ、僕は。こんなの信じるやつがどこにいる?

小父さんは細い目で君を見つめ、そろそろ薄くなる自分の頭を撫でた。

「わかった。おまえ、行ってよし!」

僕の言う事を信じたのか、あるいは君より僕のほうが弱そうに見えたのか、小父さんは君を放し、その代わりに僕の首にナイフを当てた。

横切る君と目が合う。

君は眉をひそめ、勝手なことしてくれたわね、と鋭い目線で訴えてきた。

慌てて目をそらす僕。こめん、と心の中でつぶやいた。

小父さんは僕の首を二の腕で挟んだ。

ひんやりした感触が伝わってきた。

こんなの映画中だけの光景だと思っていたけど、まさか自分がこれを体験するとは・・・・・・



「おい、マスコミはどうした? 早くしないと、こいつぶっ殺すぞ」