僕のとなりは君のために

「そう。簡単だよ。この機械の穴からモグラが出てくるから、それをこのハンマで叩けばいいんだよ」

僕は機械についていたスポンジボールのハンマを君の手に渡すと、君はさっそくやる気を見せてくれた。

「よし! 叩いてやる」

「あの、そんなに力まなくていいからね」

コインをいれ、君の第二戦が始まった。

君は肩を回し、一匹のモグラを見かけ、思い切りハンマを振り下ろした。

うん、なかなか腰の入ったいい振りだ。

って言ってる場合じゃない!

「あのさ、そんなに力を入れなくてもいいんだよ。もっとリラックスに」

「静かにして!」

君は目を赤くして、僕に一喝した。

殺気めいたオーラが君の身体から出ているのは、僕の気のせいだろうか。

君というと、眉間にしわをよせ、まるで自分の親の敵でも睨むようにして、ゲーム機を見据えた。

バンバンバンバン

あまりにも大きな音に、店員が僕たちの後ろに回ってきた。

もしかしてゲーム終了した途端、出入り禁止ということもありえる。

僕は最悪の状況を想定した。

君は相変わらず一心不乱にモグラを叩いている。いや、叩いているというより、機械そのものに乱暴を働いている。

僕は頭を抱え、君にこのゲームを薦めたことを後悔した。

やがてフィナーレに近づくに連れ、モグラの数がどんどんと増えていく。一度に5、6匹も現れるようになった。

君はハンマを邪魔物のように投げ捨て、素手で叩くことにした。

それはもう、見事な手さばきであった。

君の両手が十本に化け、いや、二十本に化け、五月雨のように容赦なくモグラに降り注いだ。

その光景はまるで昔マンガで読んだ『北○神拳』にそっくりだった。

普段の君に殴られた痛みが甦り、なんだかモグラが可哀想になってきたので、僕は目をそらした。

モグラの顔が今思い出すと、僕に似てたような気がしなくもない・・・・・・