僕のとなりは君のために

案の定予感は的中した。

アームの爪が熊を持ち上げるどころか鼻すら掠めず、元の場所に戻っていったのだった。

「え? もう終わり?」

君はガラスに顔をへばらせて、不満をもらした。

「ああ。こで終わりだぞ」

君を見ると、君は頬を膨らませ今にでもガラスと破って、ぬいぐるみを取り出そうと拳をきつく握り締めていた。

あまり君を刺激するのはよくない、と判断した僕は「取ろうか」、と君に声をかけた。

「取れるの?」

「まぁ、やってみるよ」

曖昧な返答をすると、僕はコインを入れた。ここからがいよいよ僕の得意領域だ。

「アームの爪は大抵弱く設定されてるから。そう簡単には持ち上がらないよ」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「これはね、持ち上がるものじゃなくて、掻き落とすものなんだよ」

「掻き落とす?」

君は目をまん丸にさせ、僕を見つめてきた。

君に殴られてばかりだから、たまにはこういうのも悪くないと思った。

「まぁ、見てて」

キャッチャーを動かし、狙った場所にアームを下げる。

持ち上がらない分、本来狙うべき場所から少しずらして狙うというのがコツだ。

アームが上に戻る力で、得物を落下口に近づけさせる。

「これで、よし!」

狙いを定め、あとは落ちてくるのを待つのみ。

しかし。思ったより熊の体重が重かったのか、落下口に近づけさせることができても、落ちることはなかった。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

無言。

君は何も言わないけど、顔が半笑いになっている。

「・・・・・・まぁ、猿も木から落ちるっていうしね」

急いで僕はコインを入れた。

今度こそ取ってやる。取れると言った手前で、いまさら引っ込めない。

もう一度キャッチャーを動かし、心の中でゲームセンターの神様に祈りを捧げた。