僕のとなりは君のために

こんなに本気で怒った君を見たのは初めてだったけど、何よりも君の自分を信じて疑わないその姿勢が、なんだか僕を圧倒した。

正しいことをするのに、立ち止まる必要はない・・・・・・

こんな小学生でも言えるようなことが、19歳になって君に教えられるなんて、僕は一瞬でも恐怖を感じた自分が恥ずかしくなった。

君の言うとおりだ。

僕は、いや、その場にいた見て見ぬふりをした全ての大人たちは、自分の身を案じ、保身と引き換えに、正しい道から踏み外したのかもしれない。

君の言ってることも、やろうとしていたことも全て正しい。

だけどもしも、もう一度同じ場面に出くわしても、僕はまったく変わらない行動をするのだろう。



今の僕は、何が正しいか、何が正しくないかよりも、君が安全であれば、それでいい。



僕は閉口した。そして、沈黙が僕たちを支配した。

帰り道、君も一言も喋らずただ足元を見つめ、時折小石を蹴り飛ばしながら歩いた。

なんとも気まずい雰囲気だった。

想い起こせば、それが僕たちの最初で最後のケンカだったのかもしれない。

無言のまま二人は別れ、それから一週間君に会えなかった。

やはり君は本気で怒っているのか、それともこんな臆病な僕に愛想を尽かしたのか、とにかく君は姿をくらましたのだった。

激しい後悔が胸の奥から込み上げる。

どうしてあのとき、素直に「ごめん」と謝れなかったのだろう。

家にいても、教室にいても、もし今度あったら絶対に謝ろうとと常に考えるようになった。

そして一週間が過ぎ、君が僕の前に現れた時、僕は思わず君を抱きしめてしまうほど嬉しかった。

君は僕を見放していなかった。

そう考えると、自然に鼻がツーンとなって、涙を流した。