僕のとなりは君のために

「どうして逃げたのよ!」

君は完全に怒っていた。

僕を殴るのはいつもの行動だけど、今日の君は少し普段と違う。
言葉の中に怒意がありありと伝わってきた。

「いや、彼らに何を言っても変わらないと思うよ。それに、彼らをただすのは大人のすべきことで、僕らはあまり関わらないほうがいい」

片手で君に殴られた頬を押さえ、僕は精一杯の強情を示した。


君のことが心配なんだ。無茶をしないでくれ。


だけど、それは僕の口から到底言えないことであった。

「何を言ってるの! 岳志はこのままあいつらを見逃せっていうの!」

「そうは言ってない。だけど、万が一彼らが刃物でも・・・・・・」

「ほら、やっぱり怖くなったんだね! この臆病者! 根性なし!」

臆病者と言われて、さすがに腹が立った。

「うるさい! お前こそ! お転婆! 乱暴女! あとさき考えろ、この馬鹿!」

出任せに言葉が口から飛び出ていった。こうなったら、なんでも言ってやる。

「なに! このっ! このっ!」

君は乱暴女と言われて完全に頭にきてようだ。逆立ちした髪の毛を荒々しい手付きで押さえると、いつもの鉄拳攻撃を僕に繰り返した。

僕は君のパンチをかわしつつも、さらなる暴言を君に吐いた。

「馬鹿か! そんなに死にたいのか? だったら電車にでも飛び込め!」

「死ぬ? だったらなんだっていうの?」

君は突然手を止め、さっきよりも険しい表情で僕を睨んだ。

「正しいことをするのに、いちいち立ち止まる必要があって?」

「・・・・・・」

僕は何も言えなくなった。