僕のとなりは君のために

君は何かを手探りするように、バタバタと手のひらを振り、やがて小さなバケツを手にすると、君は全身を震わせて、胃袋の中にある液体をすべて吐き出したのだった。

そして、手の甲で口を拭き、再び勢いよくバタンと倒れこんだ。

またこういう結果になってしまったけど、幸い周囲を汚さずに済んだ。

結果は前回と同じだが、少しは進歩した君にほっとした。

君を背負い、その場をあとにしようとしたそのとき、僕はまたもや自分の目を疑ってしまった。さっきまで君のことを可愛いと考えた自分でさえ、愚かと思った。

君の汚物が入っているのは、バケツなどではなく、誰かのヘルメットだったのだ。

「勘弁してくれ・・・・・・」

一気に身体から力が抜け、その場に沈んだ。

早く逃げなきゃ。

一秒でも早くこの場から去らないと、僕は君の共犯になってしまう可能性が大きくなる。

でも、その前に証拠隠滅だ。

僕は三歩下がって、足に力を入れた。

ターゲットであるヘルメットへ、いざ突進。

そして、高々と空に向かって蹴り上げる。

「飛べ!」

ヘルメットから漏れる汚物が宙を舞い、放物線を描き、草むらへと姿を消してしまった。

よし! 逃げよう。

小さなガッツポーズをし、ほっと一息をする。

「う・・・にゃ・・・・・・」

タイミングよく君から寝言が耳元に聞こえてきた。

僕はこんなに苦労してるのに、君はやすやすと寝息を立てていることに腹立った。

こいつは・・・・・・

なんだか憎たらしくなってきた。君の頭を軽く叩き、振り返った。

一瞬、光が遮られた感じがして、思わず顔をそらした。

見上げると、身長が2メートルもある巨大な先輩が僕のゆく手を阻む。

いや、2メートルがなくても、198センチはあったと思う。

「イイ蹴りだな」

その先輩が無表情で僕を見下ろす。

そして、熊のような手のひらを僕の肩に乗せた。

「・・・・・・いえ、それほどでも・・・・・・」

最悪だ。

来世生まれ変わったら、僕は忍者になりたいと思った。