僕は彼女のことが好きだった。彼女も途中まで僕のことが好きだったと思う。

だけど、別れはいつもより早く訪れる。それでも僕たちは笑いあった。

さようなら、またいつか会いましょう。

さようなら、またどこかで、って。

一年という短い歳月を経て、僕たちは別れた。

あれだけあった激しい感情は時の流れには勝てなかった。

一週間のうち、会える日が四日から二日に減り、二日から一日へと減った。

僕たちの顔から笑みが消え、手を繋ぐのでさえ億劫になってきた。

馴染みのカフェに入っても、彼女は絶えず窓の外に目をやり、常に上の空だった。


そして、別れがやってきた。


「ごめんね」

僕は謝った。

「うぅん。そんなことない」
 
奈美子は首を振って、精一杯の笑みを見せてくれた。

「こっちこそごめん。告白したのは私なのに」

「・・・・・・もうダメなのか・・・・・・」

鼻の奥がツーンとした。

「・・・・・・やり直しは、もうきかない?」

「ごめんね」

「・・・・・・本当に、好きなんだ・・・・・・頼む」

下に向いた顔が歪んだ。精一杯に見開いた目からとうとう涙が耐え切らなかった。

「ごめん・・・・・・本当にごめん」

濡れた奈美子の瞳も、キレイだ。

「笑って、バイバイしょう。ねぇ?」

「うん・・・・・・わかった」

「・・・・・・バイバイ。じゃ行くね。身体気をつけて」

「じゃあ」

「じゃあ」

奈美子は僕に背を向けて、歩き出した。そしてどんどん小さくなってゆく。

彼女は最後まで大人だった。悲しみの笑みではあるけど、それでも奈美子はその笑みを崩すことなく、僕の前から消えた。

これで、よかったのかもしれない。

そう自分に言い聞かせた。