僕の腰が思わずピクッと動いた。

あまりの怖さに紅茶カップを持つ手が震え、熱い紅茶が手にこぼれる。

「あちぃ」

紅茶カップをテーブルに置き、ハンカチを探した。

けれど、そんなものは最初からなかったのだ。
男の僕は普段からハンカチを持ち歩く習慣なんてないのだから。

君は無言で鞄からハンカチを取り出し、手渡しで僕にくれた。

少し驚いた。意外に優しい一面もあるんだ、と思った。

「結末と言うか……男女の別れに結末は一つしかないと思うけど……」

手を拭きながら、僕は視線を落とし、言葉を続けた。

「いい別れも悪い別れも存在しない。最後に残るのは、悲しい気持ちだけだ」

「だから考えるんでしょ。もっと劇的な何かを。悲しい話だけど、読んでよかったって思わせなきゃ。何かないの? 昔付き合ってた彼女との間に」

「………………」

返す言葉がなかった。
君の最後の一言が、ジリジリと胸を痛めた。

悪気があるわけではない。それはわかってる。でもこの一言がひどく僕を傷付けたのだった。

「どうしたの?」

君が僕の顔を覗いてきた。よほど僕の顔色が変わったのか、君までも心配そうになってきた。

「いたよ……彼女。一年前に別れた……」

ぶつぶつと僕が語り始めた。

自分でも驚いた。僕はまだ知り合って二日も経ってない君に一年前のことを語り始めているのだ。
もしかして、本当は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

君は例のポーズで僕の話を聞く。

もう君に聞かせているのか、自分に言い聞かせているのかもわからないほど、声が小さかったのに、それでも君は静かな瞳で僕を見守ってくれていた。