僕のとなりは君のために

部屋の鍵を差し込み、右に回した。鍵が開いた瞬間、ものすごく生活感のある部屋が目に飛び込んできた。

生活感のある部屋というのは、実に押さえた表現で、実際荒れ放題の部屋と言ってもいいくらい、めちゃめちゃなのだ。

例えば、食器棚の代わりに本が置かれているとか。もうすでに数週間前の靴下が山のように積まれたり、さらにその下に穴だらけのTシャツもあったりする。

六畳の部屋のはずが、今ではベッド以外の空間に、わずかな移動スペースしか残ってない。

住めないほどじゃないにしろ、これはかなりひどいと自分でも自覚している。

「はぁ……」

君をベッドに放り込んで、僕は床に腰をかけた。
これはどう考えてもまずい。

僕は君と今日会ったばかりだ。名前も知らない君と、知り合ったと言えるかどうかすら危うい。

なのに、僕は君を部屋に連れ込んだ。

君が起きたら、僕はきっと殺される。
いや、断言してもいい。
「どうする……」

ぶつぶつ言いながら、部屋の中を徘徊した。

知らない人が見たら、きっと僕に病院を薦めるだろう。

「うぅ……泣かないで……あなたが悲しむと……私も…悲しい」

ドキッとして、我に帰った。
君が何かを呟いた。もちろん寝言だ。

君の顔を見た。
君の頬が赤く染まっていて、まるで赤ちゃんのようだ。

思わずつねってみたくなったが、やめた。殺される。

君の首を見た。
しなやかですべすべだ。
君の胸を見た。
決して大きいとは言えない、控え目な膨らみがそこにあった。

君の腰あたりに目がいった。
……もうやめよう。これ以上見てたら気が変になりそうだ。

実というと、この部屋に訪れた女の子は、君が二人目だ。

君と、僕の元彼女。

前にも述べた通り、僕はシャイでウブなんだ。女の子に対する免疫がない。これ以上理性を保てる保証はどこにもない。もちろん、自分にもその自信はない。

今日は散々な一日だった。怒鳴られて、殴られ、しまいには身に覚えのないことまで言われてしまった。

だけど、なぜか少しだけうれしかった。

少しだけ、うれしいような、泣きたくなるよう感情を思い出したのかもしれない。



ほんの、少しだけ。