「ほら、チップだ全部持っていけ」
 愁はガン太のその言葉に驚きを感じながら
「えっ、練習だよね。チップは貰えないよ」
 と言った。
「ゲームに練習はねぇんだよ」
 ガン太がさらにチップを押し出した。
「いい気持ちだったー」
 芳井が肩にタオルを巻き、パンツ一丁でシャワーから上がってきた。


 倉岡直也はソファに座っていた。シャワーを浴びた後、全裸で寛いでいた。美月がバーボンとグラスをひとつ持って直也の隣りに座ると、黙ってグラスにバーボンを注いだ。そして、直也は左手でグラスを持ち、右手を美月の肩に乗せ、髪を撫でながら言った。
「ありがとう、お前はいい子だ。お母さんに似て綺麗だ。母さんの髪は世界一美しかった」
 美月は静かに直也の言葉を聞いていた。美月は幸せに思った。幸せに思おうとした。<これが、私の父親なんだ>そう、言い聞かせた。
 ドアが叩く音がした。玄関からだ。静かに直也が立ち上がった。そして玄関のドアを開けると、一人の女が立っていた。「ワーオ、素敵ね」女は直也の足元から見上げ、直也の全裸姿に興奮して抱きついた。「かおりか」直也が言った。吉河かおりだった。「あなたはいい男ね。いつ見ても、いい男だわ」かおりが言うとキスをした。「早く家に入れてよ~、あなたの顔を、もっとはっきり見たいの」そうかおりが続けて言うと、直也はかおりの腕を掴み家の中に引っ張った。
 かおりが家の中に入ると美月の姿に気づいた。美月はソファの横で、呆然と立ち尽くして脅えていた。「あら、子供」かおりが言った。「俺のガキだ」直也が言うと、かおりは美月に近付いた。「かわいいわね。名前、なんて言うの?」かおりは聞いたが、美月は黙って何も答えなかった。「あら、脅えてるわ。すごい震えている。でもお姉さんは怖くないのよ」美月の頬にキスをした。その瞬間、美月の目に昔のことが過った。あの時も同じだった。美月は、母親と食事をしていた。バタンと玄関のドアが開かれ、体中濡れた直也と女が入ってきた。外は今年一番の大雨だった。「キャー、ビジョビショー」その女は言った。直也は笑っていた。女は長袖の白いTシャツにジーンズだった。Tシャツが体に張り付いていて、胸の形がクッキリと分かる。女は下着を身につけていなかった。その女が突然下品に笑い始め「何がおかしいんだ?」直也が聞いた。