二度目の恋

その時、窓から風がすぅーと入り込んで、カーテンは靡いた。カードを睨みつけていた目が、一瞬窓を見た。だがそれが風だと分かると、みんなまたカードを睨み始めた。唯だけは黙って窓を見続けている。「行けないよ……亨さんの顔、見れないよ……」唯の目に涙は溜まっている。「バカ!女みたいにメソメソすんなよ」芳井が言った。「ヨッシー!」竹中は一言、芳井の名を叫んだだけだ。その後もカードを睨み、タバコを吹かしている。竹中の言いたいことは、みんな分かっていた。みんな、悲しいんだ。
 「愁、これ」ガン太はズボンのポケットから、クチャクチャになったチケットを二枚テーブルの上へ出した。愁は黙ってそのチケットを手に取る。それには『巨人対ヤクルト』と書かれている。野球のチケットだ。「随分前に新聞屋から貰ったチケットだよ。今日、亨と行く予定だったんだ。もう、やってるな。愁、テレビをつけてくれないか」ガン太は言い愁は席を立って、部屋の隅にある十四インチの古ぼけているテレビをつけた。すると、まだ画面が現れる前に、歓声は沸き起こってきた。次第に画面いっぱいに、広い野球場が写し出される。その野球場のスクリーンに“満員御礼”という文字が、画面を通じて映し出された。また観客の歓声とともに、客席も画面に映る。それぞれのチームのメガホン。ポップコーンやおつまみを食べている人々。片手にビールを持って、楽しそうに応援している客の姿もある。「彼奴、野球下手なのに野球好きだったな」いつの間にかガン太は、カードをテーブルに置いて、無心にテレビを見ていた。「そう、この時期亨さんがいると煩いの。『テレビつけろ!』って、叫んで」唯が言った。「目、輝かせていたな……」ガン太は自然に、口が動くようだった。「そうそう、ポーカーやってる最中でも、テレビに釘付けになっちゃうから、いつも三人でやってたもんね」芳井は静かに言った。「知ってるか?彼奴ボール握れないんだぜ」ガン太が言い「知ってる。知ってる。手が小さいから握れないんだ」芳井が言った。その時、テレビから再び歓声が上がり、みんな注目した。「クッソー、巨人負けてるよ」竹中は言い、吸っていたタバコを灰皿に擦り消した。