みんなで焼き肉を食べて、楽しくて美味しかったのに、僕、怒っちゃったんだ」恵子は少し愁に近づき「何で?」静かに聞いた。「分からない……分からないんだ。でも突然怒り出して、僕、席を立って走り出した。もうその場にいたくないと思って、走って走って、何処までも行こうとしたんだ。そしてらパパは、僕を心配して追ってきてくれたんだ。でも僕は、パパが追ってきてるのを知らなくて、ただ走り続けた。パパは僕を追って走り続けて、突然胸に手を当てて、心臓が裂けて……そこで目が覚めて……」恵子は優しく、愁に分かりやすいように話し始めた。「パパ、事故だったの。あの日、パパがいなくなった日、朝早くに開発事業部の人が来て『村が揉めてるんだ!』って言って、パパを車に乗せて連れて行ったの。二つ隣の村よ。パパね、大変だったらしいの。計画がうまくいかなくって」愁は恵子を見ていた。「計画?」疑問に思い、答えた。「その村をもっと、素晴らしい村にするための計画。村の人を一生懸命説得したんだって。一人一人、みんなが分かるまでね」恵子は一度口を噤った。「パパ……」無意識に言った。「それでもみんな納得いかなかった。パパの計画だったの。パパね、この計画の素晴らしさを分かってもらうために、もう一度現場に行ったの。一人で……そこで、パパは、死んだ……」恵子は胸を詰まらせた。愁はただ口を開け、瞬きもせずにその話を聞いていた。「雨が降ったの。静かで、そんな気配はしなかった。でも地盤は緩んでて、突然土砂が崩れて、生き埋めになったんだって……」恵子の声は震えた。「次の日まで、誰も気づかなかった……」涙が流れた。「うそだ……」愁はその話が信じられなかった。「山に囲まれた村にはよくあること。その村は電話の通りが悪くて、連絡する事も出来なかった。助け出したとき、パパはまだ意識があったの。パパね、微かな意識の中で、愁の名前を呼んだんだって……」一瞬時が止まったようだった。「僕の……?」愁は溢れ出ようとする、涙を堪えていた。<パパは、死んだんだ……>初めて亨の死を思った。<パパ……>色々なことを思った。亨と遊んだこと、話したこと、湖の出来事。亨を考え亨を思ったが、愁は亨の死を信じなかった。