二度目の恋

 辺りは暗く、ポチャンと何かが水に落ちる音だけが聞こえ、そこから小さな輪が、大きく波打ち広がっていた。
 そして次の日、父親は死んだ        
「パパ!」愁の声が聞こえ、「ん?」亨は無意識に返事をした。<子供が大人になったとき、妖精は……見えないのか……思い出は……消えるのか……>亨は、湖に顔を向けて座っていたが、湖は見ていなかった。「パパ」愁は呼んだ。<ここは、現実なのか……>次第に亨の目に、湖が写り込んでくる。「パパ!」愁はまた呼び、亨は無意識に愁を見た。亨には、ここが現実なのかどうか分からなくなっていた。父親との思い出と、今ここにいる自分が重なり合っていた。「光った……」愁が言った。「ん?」また亨は無意識に返事をした。亨はただ湖を眺めるだけだ。「また!」愁は立ち上がり「ほらまた!あそこも!あっちも!まただ!」愁は光った方向を指さし、興奮して叫んだ。が、亨はまた無意識に愁を見た。愁が湖に向かって、一生懸命叫んでいる姿が見えた。その愁の姿に、亨は湖をもう一度見る。青い光、赤い光、様々な光が水の中から跳ね上がった。「魚だ……」亨は言った。「さかな?」愁が言うと、また水の中から跳ね上がり、光った。「あそこだ!」愁が指をさして叫び、亨はその方向を見た。すると魚が水の中から、光りながら高く跳ね上がっていた。それは空からの日の光と、その光に反射する水面が、跳ね上がった魚の鱗に光の元を与えていた。「さかな……」愁は口を開けて答えた。そして口を閉じ、湖をジッと見「パパ」静かに言った。「うん?」亨は優しく答えた。「ここに来てよかったよ」愁はそう言うと、笑顔で亨を見た。「ありがとう」亨も笑顔で返した。すると、湖の四方八方から数十匹の魚が、一度に跳ね上がった。日の光が魚に反射して、それぞれの色を放っていた。それは今までに見たことのない美しい光景だった。霧が立ちこめる湖に、太陽の光が線を通って降り立ち、それに反射する水面が魚に光を与えた。愁はその見たこともない光景に、目を輝かせている。リュウはその光景に少し脅え、岩の陰に隠れていた。