二度目の恋

「どんなんだ?髪の毛は?」
「背中まである……」
「背中まで?じゃあ、目はどんなんだ?」
「目?目は……細くて、少し吊り目」
「色は?」
「色?」
「目の色だ」
「あお……」
「青?じゃ、じゃあ、顔は?顔は何色だ?」
「顔も、あお……」
「やっぱりか!」
 亨は興奮していた。
「そうか……俺が、子供の頃に見た妖精と、同じだ」
 亨は妖精が自分の体に乗ってることが凄く嬉しく、誇らしげに何度も両肩を見た。
「何で、見えるの?」
 愁は妖精を見ながら、ゆっくりと言った。
「さあ、何でかな?俺にも分からん」
 亨は子供の頃を思い出していた。愁と同じ頃。十二才の頃だ。父親と二人、巨大な岩に座って湖を眺めていた。会話は無く、二人湖を見て、黙って釣りをしている。ポチャン湖から音がし、水はそこから小さな輪が出き、それが大きく広がって波打っていった。その時、まだ幼い亨の足元に、小さな妖精が現れた。亨は驚きはしなかった。妖精を見たことは初めてだったが、妖精がいることを信じていた。亨は妖精を手に取り、そっと持ち上げた。
 すると妖精はパッと消え、亨は慌てて辺りを見渡すと、父親の足元にパッと現れた。「パパ……」亨は呼びかけたが父親は振り向かず、それが聞こえたのか聞こえなかったのか分からないが、そのままずっと湖を眺めて釣りをしていた。妖精は一人、また一人と次々現れ、みんな父親の体に乗り、髪の毛を引っ張ったり腕を引っ張ったりし始めた。「パパ?」亨は父親の顔を見て、顔を傾げながら呼んだ。「パパ?」幾度も幾度も呼んだが、父親は一度も振り向くことはなかった。その父親の姿に、愕然と立ち上がって呼び続けたが、声は届かなかった。