二度目の恋

「事故……」
「土砂が崩れ落ちて、生き埋めになった」
 健太郎は何も言えなかった。愁はタバコに火を付けた。
「事故死ならば、まだ自分の中で整理できたのにな」
「違うの?」
 愁を見て言った。
「ああ、事故死に見せた殺人だった。親父は、僕達を裏切って殺されたんだ」
「裏切った?」
「不倫だよ。その親父を殺した男の妻と不倫した。女に会いに行って殺されたんだ。僕は、憎かった。殺された現実よりも、裏切ったことが許せなかったよ」
 健太郎は何も言えず、ただ黙って愁を見た。
「鉄道も、僕が進んでやった訳ではない。みんなに言われてやっただけだ。親父は、裏切った。裏切って殺されたよ。美月の父親に……」
「美月?」
「この前会った彼女だよ。彼女は愛を知らずに育ったんだ。母親は僕の親父に恋をした。父親からは虐待を受けていたんだ。まだ、十二なのに……実の父親に暴力を受けた」
「……信じられない」
「僕は彼女を守りたかった。彼女を救いたかったんだ。……でも、僕には出来なかった。怖かった。何処かで逃げていたんだ」
「そんな、仕方ないよ。愁が悪い訳じゃない。誰だって、きっと俺だってそうだ」
「まだ、あの時のことが忘れられない。まだ、あの時のことが目に浮かぶ……美月は幸せなのかなぁ。あのことを、忘れられたのかなぁ」
「彼女は幸せなんだよ。結婚もしたじゃないか。幸せを掴んだんだよ」
 健太郎は精一杯の笑顔で愁を励ました。
「そっか……」
「そうさ~、彼女は幸せなんだよ。愁は、それで満足すればいいじゃないか。愁も幸せになればいいんだよ」
 健太郎は優しく愁の肩を寄せた。
「ありがとう……」
 愁は笑顔で答えた。