二度目の恋

「ちょ、ちょっと」
 恵子は慌てて台所を飛び出した。
「ちょっと、何処行くの?」
「美天(びてん)村(むら)だ。ちょっと面倒が起こった。暴動だ。暫く帰らんと思うが後は頼む」
「しょ、食事は?」
「いらないよ。あ、それと愁によろしくな」
 そう言うと玄関の扉を開けて出ていった。恵子は亨を追いかけるように玄関の外に飛び出すと、亨と男は先に止まっているオンボロの軽トラックに向かっていた。
「雨?」
 軽トラックから滴が垂れていた。
「何処かで、降ってたのかしら」
 車のタイヤには泥が染みついていた。恵子はその車に少し気をかけたが、すぐに亨と男が車に近寄っていく様に目をやった。亨と男を見送った。男は亨に真剣に話していた。亨はその男の話を真剣に聞いていた。その男の顔をジッと見た。その男は、倉岡直也だった。 


ガバッと目を見開き、恵子はテーブルを勢いよく立ち上がった。
 


軽トラックに亨と直也は乗り、キーを回し、エンジンをかけ、うねるような音を出して走り出していった。


電気もついていない暗い部屋で、その記憶は蘇った。テーブルを立ち上がった恵子は、そのまま動きはしなかった。