二度目の恋

「いや、何でもないのよ。でもこのごろ見ないじゃない。外にも出てないみたいだし。変な噂も聞いたし」
「噂?」
「だって変よ。あそこの家。美月ちゃんしか見ないじゃない。いつも電気は消えてるし、夜な夜な変な音が聞こえるって言うし、美月ちゃんのすすり泣く声も聞こえるらしいじゃないかい。あくまでもこれは噂だから私が聞いた訳じゃないけど……」
 確かにその噂は嘘ではなかった。美月が神霧村に来たときも、良く雨に濡れて外に立っていた。それを静江は見ていたから、疑いはしなかった。愁は雨に打たれて立っていたことは覚えていた。だがその噂で美月のことを悪いように考えもしなかった。美月がなぜ会わないのか、静江が何を言いたいのかサッパリ分からなかった。
 静江は愁が何か知っているのか少し探ってみたかっただけだった。リュウが殺されたことに関係あるのでは無いかと少し疑ってもいた。こんな事件はこの村では初めてだ。静江はサスペンスドラマの見過ぎで勝手に推理もしていた。
<第一発見者は美月ちゃん。あの事件が起こってから美月ちゃんは一度もみんなの前に現れていないわ。きっとなんか事件に巻き込まれたのよ>真剣に考えていた。
「じゃあおばさん、失礼します」
 愁は自転車を跨ぎ、走り始めようとすると
「ちょっ、ちょっと待って!あ、あの、家でお茶でも飲まない?」
 静江は慌てて愁を止めた。もっと愁を探ってみたかったのだ。
「でもおばさん、時間無いから……」
 愁は自転車を漕ぎ始めた。
「あら、そうかい。じゃあ配達が終わったら家においで。お茶菓子用意して待ってるから」
 静江は大声で叫んだ。まだ諦めきれなく、ジッと愁の背中を見ていた。愁も気にしていた。美月が事件に関わっているとは思わなかった。ただ、何故一週間会わなかったのか知りたかった。何度も美月の家を訪ねてもいつも留守だった。何故、留守なのか。今まで何処にいたのか。それも知りたい。だから愁は早く美月の家に手紙を届けに行きたかったのだ。あと唯の所にいって美月に届ければ配達は一段落する。そうすれば美月とも落ち着いて話せるだろう。今日はいるだろうか。