二度目の恋

 美月は窓から村を眺めていたが、その目に村は写っていない。美月の目には悲しい過去が写っていた。
 「何処へ行く」直也は振り返って言った。家は雨の音で響き渡る。シャリーが玄関から出ていこうとしたが、直也の方へ振り返って見た。それでも何も答えず、また振り返り出ていこうとしたが、そのシャリーに直也はまた言葉を放った。「あいつか……」シャリーは一瞬止まった。「あいつの所に行くのか」直也は笑ったように見えた。「彼奴は丘にいる。今日、会う約束をしているんだ。現場の下見でな」直也は鋭い眼差しで睨みつけた。シャリーは驚き、勢いよく玄関の扉を開けて家を出ていった。そんなシャリーを見て、直也はふと笑いかけた。
 そのとき、美月が勢いよく階段を降りてきて、玄関へ向かった。直也は美月を止めようとしたが、美月は直也を振り払い、玄関に突進してドアを開け「ママ!」大声で叫んだ。外は土砂降りだった。シャリーはその声に立ち止まり、振り向いたが悲しく辛い顔でまた走り去っていった。雨が鋭くシャリーの体に叩き付けた。
 美月はシャリーの後を追って走り出した。


「じゃあここで」
「うん」
 ガン太と愁は自転車を止めた。ここからは分かれ道となっている。この先を行くと神霧村、ここを曲がるとまた隣の村へと繋がる。愁とガン太は薔薇山の頂上にいた。
 二つの道を二人が同時に自転車を漕ぎ始め、違う方向へ走った。
 愁は山道を下った。ペダルから足を離し、自転車は道行くままに流れた。風は靡き、愁は山の匂いを噛み締めていた。


 倉岡シャリーは雨の中走っていた。悲しい顔で──────
 雨に打たれて丘へ向かっていた。田園を走り抜け、家々の間も通り抜いた。そんなシャリーを追って美月も雨に濡れて走った。
 丘に近づくとシャリーはゆっくりと歩き始め、一度立ち止まり一呼吸してにこやかな顔をしたと思うと、また歩き始めた。
 美月も後れをとって追いついた。立ち止まり、遠くを見るとシャリーが丘に向かって歩いていた。その奥に、人影が見えた。微かな人影だ。美月はその人影に気を求めず、一呼吸して歩こうとしたとき、土砂は崩れ落ちた。