二度目の恋

遠い風が美月の左右に交差した。美月はその風に当たりながら村を眺めていた。


 「シュウ!」郵便局長が愁の名を呼んだ。愁は自転車の後ろに手紙が山のように入った郵便鞄を括りつけていた。「シュウ!」また局長が呼んだ。その声で愁は振り向いた。「これも頼む」そう言うと大きな鞄を一つ渡した。その鞄にも手紙は山のように入っていた。そこはざわめく郵便局。隣の村の郵便局だ。愁は渡された鞄を自転車の前に括りつけようとしていた。
 「愁ちゃんも大変だ。後ろに一つ、前に一つ、二つの鞄を抱えて配達なんて、局長の人使いの荒さにも感心するよ。でも小さい体なのに良くやってくれるから助かるよ」一人の局員が言った。「そんなことないですよ。だって楽しいもん」愁は笑顔だった。「そうか。愁ちゃんがそう言うと、何かこっちも嬉しいな」その局員も笑った。「愁、行くぞ!」遠くでガン太が叫んだ。ガン太も自転車に郵便鞄を乗せ、配達の準備をしていた。「うん、今行く!」そう言うと愁は自転車を押してガン太の所まで歩いた。
 ガン太の所までやってくると、二人は自転車をまたぎ、ペダルを踏み落とそうとしたとき、「ちょっと待ってくれ!」と遠くから叫び声が聞こえた。
 局長が走ってきた。「愁、ちょっと待ってくれ!」愁は振り返り、ペダルから足を離し自転車から降りると、局長は息を切らしながらやってきた。
「いや~年もとると、こんな短い距離でも息切れしてしまうな」
「局長、何のようです?」
 ガン太が聞いた。
「愁に用があるんだ」
「何ですか?」
 愁が聞いた。
「愁は神霧村に配達するだろ」
「はい」
「そこに、倉岡美月っていう女の子はいるか?」
「美月ですか?」
「知ってるのか!」
「はい」
 局長は息を切らしながら真剣に、興奮して愁に迫りながら聞いていた。愁はその様子に少し後退った。ガン太はそんな愁を見ていた。
「この手紙を渡してくれ」
 そう言って愁に手紙を渡すと、トコトコと歩き去ってしまった。愁は首を傾げ、手紙を見るとそこに宛先の住所はなく、ただ『倉岡美月宛』と書かれただけだった。
 愁はその手紙を後ろの郵便鞄に入れ、自転車をまたぎ、ペダルを振り落としてガン太と一緒に走って行った。