(希望はまだ、ある………!)



湿った空気を嗅ぎ分けて、連なるパイプ管に沿うように、道を駆けた。胸を走る期待が動悸を更に早める、嗚呼、其れでも構わない。

とにかく彼に、会いたい。


足先が向かうのは、暫く私達が拠点地にしている仮住まい。もうあそこへの道も、ここら一体の地理も頭に入るくらい私はここに馴染みつつあるのだ。

もう地下世界について無知すぎるなんて、言わせないよ、アルト。私もアルトの役に立つのだと、今から大口叩いて、驚かせてやりたい。


(望むのは、彼の喜ぶ顔だった)





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緩む頬を浮かべて辿り着いた仮住まいの扉を、月は音うるさく抉じ開けた。


「アルト!!」

「……月?」


あまりの私の勢いに圧倒された彼は動揺しながら後退りしていた。
なんだかまともに顔を合わせるのも久々な気がする。


「私、あれからいっぱい調べたの!」

「お、おお」

「だからごめんね、ずっと朝も夜も慌ただしくしてて」

「……それはいいけど、なんだよ。落ち着けって」

「落ち着いていられるもんですか!!」

「はあ?」


このハイテンションぶりにアルトはついていけないようである。それもそうか、あんな絶望を感じた後にこんなテンションでいられるなんて誰も思わないだろう。

でも何故か、アルトは心底ホッとしていた。
自分のあの遺跡の場での落ち込みぶりに、彼女の希望まで打ち砕いてしまっていたのではないかと、ずっと気掛かりでいたから、尚更。

ソッと肩に片手を置いて彼女を落ち着かせようとしたところで、今度は月から両手の平を掴み直された。


「っまだあったよアルト、あったんだよ!
ーーーー安楽街は、奪われただけだったの!」


「え、」

「最初は文献漁ってただけだったの。ヒントはいっぱいあったけど、決定的なことは何もなくて…でも理貴さんが言ってた。安楽街は滅びたんじゃなくて奪われただけだって。ってことは、まだ存在するってことだよね?……アルト、まだ諦めなくていいんだよ私達、まだ、希望持ってていいんだって!」

「……」

「っ探そう……奪われたなら、奪い返そう。
ーーー安楽街に"連れて行ってもらう"んじゃなくて、私も一緒に探したいの」



たったそれだけの真実に、この世で一番幸せそうな笑顔を浮かべて、精一杯己に笑いかける彼女に、心震えたのを感じた。
心だけじゃなくて、確かに身体も震えている。



……よく見れば薄く目の下にできた隈、やつれた様な頬。

安楽街に連れて行ってやる、そう言って彼女を拾った癖にこの世界からもう無くなってしまったかもしれないという建前にだけ踊らされていた愚かな自分。そんな力無くした俺に、疲れているだろうに屈託無い笑顔で、一つの希望を持って来てくれた彼女。

(嗚呼もう、)



助けようとして、助けられていたのは、俺の方だったのだ。