「ありがとう」




理貴はまるで親が子を見るような優しい微笑みで、月の頭を撫でた。


孤独な彼の傍にいる事を諦めないでくれる、まだ此処に来て日も浅い彼女にきっと誰もがこの先、救われていくのだろう。今の彼女を見ていると、理貴にはそんな気がしてならなかった。


「……いえ、私はもっと早く、この世界を知ろうとするべきでした」


そうしていれば、彼のあんなに悔しい背中を見る事はなかったのに。


「今十分、知ろうとしてくれているじゃないか。アルトも分かってるはずだよ。
………どうだろう。何か君の、此処に関する捉え方は変わったのかな」


月はタイトルも何もない本を片手に、メモしていた茶紙を目の前に差し出す。彼がそれを受け取った事を確認した後、月は勇気を持って理貴に問い掛けた。





「ーーー"地下世界"は、いつから変わってしまったんですか」