----遺跡の中心で、アルトは何かを見つめながら佇んでいる。


「、ねえ」


何となく話しかけるのが忍びなく、小さな声で彼の名前を呼んだ。振り返ってはくれないが、アルト肩がピクリと揺れた。


「"アルマディナ"、か」

「……」

「……何か引っかかって、どっかで聞いた気がしてた」


頭の中でアルマディナという言葉が何度も浮かんでは消えて、その言葉の意味がどうしても思い出せなかった。
この、目の前にある遺跡の中心。

石碑のような、そこに在る石を見るまでは。


「アルト、」

「……っアルマディナは、理想郷を意味する」

「!」


手でなぞった石には、様々な文字が刻まれていた。此処で生きていただろう人々の名前と、一言、『理想郷』と。





「なあ。もう、ないのか?」


「………、」


「"安楽街"なんてっ、この世界なんかにはもう………ないのか」



ギュッと惜しむように強く握られた彼の拳は、絶望したように震えていた。顔を伏せて、必死に何かを押し留めようとする彼は、もっと何かを叫びたがっている気がした。


(私が彼なら、何と言葉をかけてあげられるのか)